「なんかAに憑いとる、裏行って神社のかんぬっさん連れて来いて!」
Bが縁側から裸足でダッシュしていき、私たちは窓からCを引き抜きました。
「足!足!」「痛いか?」
「痛うはないけどなんか噛まれた」見るとCの靴下のかかとの部分は丸ごと何かに食いつかれたように、
丸く歯形がついて唾液で濡れています。
相変わらず中からはAの声がしますが、怖くて私たちは窓から中を見ることができませんでした。
「あいつ俺に祟らんかなぁ」「祟るてなんやAはまだ生きとるんぞ」
「出てくるときめちゃくちゃ蹴ってきた」
「しらー!」縁側からトレーナー姿の神主さんが真青な顔して入ってきました。
「ぬしら何か! 何しよるんか! 馬鹿者が!」一緒に入ってきたBはもう涙と鼻水でぐじょぐじょの顔になっていました。
「ええからお前らは帰れ、こっちから出て神社の裏から社務所入ってヨリエさんに見てもらえ、
あとおい!」といきなり私を捕まえ、後ろ手にひねり上げられました。
後ろで何かザキっと音がしました。
「よし行け」そのままドンと背中を押されて私たちは、わけのわからないまま走りました。
めちゃめちゃ怒られたような気もしますが、それから後は逃げた安堵感でよく覚えていません。
それから、Aが学校に来なくなりました。私の家の親が神社から呼ばれたことも何回かありましたが、
詳しい話は何もしてくれませんでした。ただ山の裏には絶対行くなとは、言われました。
私たちも、あんな恐ろしい目に遭ったので、山など行くはずもなく、学校の中でも小さくなって過ごしていました。
期末試験が終わった日、生活指導の先生から呼ばれました。
今までの積み重ねまとめて大目玉かな、殴られるなこら、と覚悟して進路室に行くと、私の他にもBとDが座っています。
神主さんも来ていました。生活指導の先生などいません。私が入ってくるなり神主さんが言いました。
「あんなぁ、Cが死んだんよ」
信じられませんでした。Cが昨日学校に来ていなかったこともそのとき知りました。
「学校さぼって、こっちに括っとるAの様子を見にきよったんよ。病院の見舞いじゃないとやけん危ないってわかりそうなもんやけどね。裏の格子から座敷のぞいた瞬間にものすごい声出して、倒れよった。駆けつけたときには白目むいて虫螺の息だった」
Cが死んだのにそんな言い方ないだろうと思ってちょっと口答えしそうになりましたが、神主さんは真剣な目で私たちの方を見ていました。「ええか、Aはもうおらんと思え。Cのことも絶対今から忘れろ。
アレは目が見えんけん、自分の事を知らん奴の所には憑きには来ん。アレのことを覚えとる奴がおったら、何年かかってもアレはそいつのところに来る。
来たら憑かれて死ぬんぞ。
それと後ろ髪は伸ばすなよ。もしアレに会って逃げたとき、アレは最初に髪を引っ張るけんな」
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