そこへイト子を案内し、改めて
「改めまして、ご無沙汰してました。お世話になります。」
「いぇいぇ、こちらこそ。おじさんとおばさん(イト子父母)は元気?」
「うん、相変わらず」
と挨拶を交わした。
「遠路疲れたでしょ? 今夜は早めに休もう。風呂入れてくるから。」
部屋を中座し、浴室でお湯の栓をひねる。
湯加減を確認し、タイマーをセットして部屋へ戻ると、イト子が不思議そうな顔で待っていた。
「俺くんはどこで寝るの?」
「俺は、茶の間で、コレで寝る」
と、登山用の寝袋を指差したら、イト子が物凄く険しい顔で苦言を呈した。
「そんなんじゃ、俺くんのお母さんに申し訳なくて眠れないよぅ。お願いだから、お布団で寝て。」
「いやいや、俺、慣れてるから平気。
てか、それこそ嫁入り前のイト子さんを寝袋で寝せたなんてオカンに知れたら、コ○されるから。」
「えー ダメだよ、俺くんに迷惑かけたら、うちのオトンにシバかれるよ。お願いだよ。」
両者一歩も引かず、壮絶な寝袋の取り合いにもつれ込む。
体力で勝る俺、必死に寝袋を抱え込むイト子。
ラグビーの試合でもこんな壮絶な攻防はないだろう。
やがて、試合終了のタイマーが浴室で鳴り響く。
「あ、ほら、お風呂準備できたから、イト子さん入ってあったまってきて。バスタオル置いてあるから使って。」
二人とも息が弾んでいる。
従兄妹とはいえ、ハァハァと弾んだ息と一緒に上下する胸は妙に生々しく、また艶かしくもあり。
イト子は、負けを悟ると、頬をぷぅっと膨らませて、
「ありがと・・・ぜぇぜぇ。お先に頂きます・・・はぁはぁ。」と言って浴室に消えた。
俺は寝袋を茶の間の床に敷いて潜り込み、かき集めたレポートの資料に目を通し・・・通すふりをした。
さっきの息遣いと大きく弾む胸が脳裏を支配し、資料は目を通しても全く頭に入ってこなかった。
そう、俺はまだ、卒業していなかったのだ。大学もDTも。
濡れた髪を乾かすドライヤーの音が、脱衣所から聞こえてくる。
従姉だ、従姉なんだ、本当の姉のような人なんだよと自分に言い聞かせていた。
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