
「ん?」
あわてて視線を逸らす俺。
「なーに? どうしたの??」
ここで、真面目な俺が余計なことを口走る。
「いや・・・その。独身の男の前で、そういう刺激的な装いはいかがなものかと。」
大馬鹿野郎、なんてこと言うんだ俺。
「そう?? 姉弟みたいなものでしょ? 気にしないよ私は。」
ああ、女神さま。いや、悪魔。やっぱり女神さま。いや絶対悪魔。
綺麗に剥かれたリンゴをシャリシャリほおばっている俺。
長い髪を玩びながらテレビを見る、イト子の横顔と胸の谷間から目が離せない。
「・・・・歯、磨いてくる。」
いたたまれなくなった俺は、飲み終えた湯飲みと皿を台所のボールに沈め、洗面所(脱衣所)に妙な格好で向かう。
不肖の息子はコレまでこんなになったことはない!と言うくらいに怒張し、うまく歩けない。
「スミス、エンゲルス、マルクス、ケインズ・・・」
冷静になる呪文を唱える。面白かった大学の授業を思い出せ。
やらしい話とは無縁のボサボサ白髪のアインシュタインな教授を思い出しながら、鏡に映った赤面した自分の顔を情けなく見つめ、歯
ブラシを動かしていた。
歯磨きを終えて顔を洗い、茶の間に戻ると入れ違いにイト子が歯を磨きに行く。
わざわざ狭い引き戸の近くで、体をお互い横向けてすれ違いざま、お尻が俺の脚にかすっていった。
こ・・・こいつ、わざとか?と疑う自分が、ひどく浅ましく思えた。
ぬくもりの残る寝袋へまた潜り込み、ちゃぶ台の下へ頭を突っ込むようにして横になった。
俺の背中を通って、イト子は寝室へ向かう。
「俺くん、おやすみなさい。」
「あ、うん。おやすみなさい。」
灯りを消され、暗くなった室内。
奥の部屋から襖越しにイト子の息遣いがかすかに響く。
俺、今夜眠れるんだろうか?
お茶なんか飲まなきゃ良かった・・・と不安になりながら目を閉じた。
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