420 :かおる :02/02/07 00:53
とんでもないところに来たと私は思いました。
服の中を自分ではっきりそれとわかる冷たい汗が流れ続け、止まりませんでした。
F美はじっとマネキンのそばに置かれた紅茶の方を凝視していました。
こちらからは彼女の髪の毛しか見えません。
しかし突然前を向いて、何事もなかったかのようにフォークでケーキをつつき、お砂糖つぼを私たちに回してきました。
私はマネキンについて聞こうと思いました。
彼女たちはあれを人間扱いしているようです。
しかもケーキを出したり服を着せたりと、上等な扱いようです。
ですが、F美もおばさんも、マネキンに話しかけたりはしていません。
彼女たちはあれを何だと思っているのだろう?と考えました。
マネキンの扱いでは断じてありません。
しかし、完全に人だと思って、思い込んでいるのだとしたら、
『彼』とか『あの人』とか呼んで、私たちに説明するとかしそうなものです。
でもそうはしない。
そのどっちともとれない中途半端な感じが、ひどく私を不快にさせました。
私がマネキンのことについて尋ねたら、F美は何と答えるだろう。
どういう返事が返ってきても、私は叫びだしてしまいそうな予感がしました。
どう考えても普通じゃない。
421 :かおる :02/02/07 00:54
何か話題を探しました。
部屋の隅に鳥かごがありました。
マネキンのこと以外なら何でもいい。
普通の学校で見るようなF美を見さえすれば、安心できるような気がしました。
「トリ、飼ってるの?」
「いなくなっちゃった」
「そう・・・かわいそうね」
「いらなくなったから」
まるで無機質な言い方でした。
飼っていた鳥に対する愛着などみじんも感じられない。
もう出たいと思いました。
帰りたい帰りたい。ここはやばい。長くいたらおかしくなってしまう。
その時「トイレどこかな?」と、S子が立ち上がりました。
「廊下の向こう、外でてすぐ」とF美が答えると、S子はそそくさと出て行ってしまいました。
そのとき正直、私は彼女を呪いました。
私はずっと下を向いたままでした。
もう、たとえ何を話しても、F美と意思の疎通は無理だろうということを確信していました。
ぱたぱたと足音がするまで、とても長い時間がすぎたように思いましたが、実際にはほんの数分だったでしょう。
S子が顔を出して、「ごめん、帰ろう」と私に言いました。
S子の顔は青ざめていました。
F美の方には絶対に目を向けようとしないのでした。
「そう、おかえりなさい」とF美は言いました。
そのずれた言い方に卒倒しそうでした。
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